「んふふふ・・・v」

「何よぉー。気持ち悪いわね・・・」

「んふふふ・・・、だってぇー・・・」






あれから数日たった昼下がり。

気味悪いほどニヤケきった親友が、クッキー片手に私が店番している花屋の店先に遊びにきた。



「んふふふふふふ・・・」

「ハイハイ、もう分かりました。よぉーく分かりましたから、その気持ち悪いニヤケ笑い、いい加減に止めてくれる?」

「そんな事言っても、勝手に顔がニヤケちゃうんだもーん。んふふふふ・・・」

「はぁー・・・」



まあ、ぐちぐちと泣いていられるよりはマシだけど・・・。

やっぱり限度ってものがあるでしょうが。

あんたの毒気に当てられて、せっかく綺麗に咲いている花が一斉に枯れちゃったらどうすんのよ・・・。



「どうやら無事に仲直りできたみたいね」

「聴きたい!? ねえ、聴きたい!?」

「・・・聴きたくない」

「えぇー・・・」

「わざわざ聴かなくたって分かるわよ・・・。あんたの頭の上で、ずーっとハートマークが乱舞しっ放しなんだもの・・・」

「もう・・・。せっかくいのに報告しようって張り切って来たのにぃー・・・」

「だからいいって。聴かせてくれなくても」

「あのねー。依頼人なら、報告を受ける義務ってものがあるでしょう?」

「依頼書に書いてなかった? 『報告は一切不要』って・・・。他人の睦言なんて興味ありませんよぉーだ」

「何なのよ・・・、この依頼人・・・」



プッと脹れて拗ねた振りしているけど、ずーっと目元が緩みっぱなしだよ。サクラ。



「まあ、とにかく・・・良かったね・・・」

「うん、ありがとう・・・。いののお陰だよ・・・」



顔一杯で幸せ笑いを見せてくれるこのこには、あんな泣き顔は似合わない。

いつまでも春の陽射しのようにニコニコと笑っておいで。

私もあんたに負けないくらい、とことん幸せになってみせるから。



「ねえ・・・、ホントに聴きたくない?」

「・・・しようがないなぁ・・・。じゃ、ちょっとだけね・・・」

「うん!」












甘かった・・・。

絶対、“ちょっと”なんかで終わる訳なかったんだ・・・。

仏心を出したのが運の尽き。

結局、延々と最初から最後まで事細かに強引に聴かされる破目に陥って、

私の貴重な午後の時間は、はかなくも消え去っていった・・・。



「・・・でねでね。そしたらカカシ先生ったらね・・・。ちょっと、いの。聴いてるぅ?」

「あー、聴いてる聴いてる・・・。あんたのカカシ先生が素敵で素敵でどうしようもないってよくよく分かったから、もう勘弁してよ・・・」

「何よ、その言い方・・・。もしかして、カカシ先生の事、馬鹿にしてるの!?」

「してませんって・・・。いかにカカシが素晴らしい男か、よぉーく理解できました・・・」

「何か引っかかるなぁ・・・。まあ、いいや。で、どこまで話したっけ?・・・そうそう、それでね、今度は私が先生に・・・」

「ちょっと・・・。そこはさっき聴いたってば・・・」

「いいじゃない、何回聴いたって。・・・で、その後ね、私とカカシ先生で一緒に・・・」

「そこもさっき聴いたよー」

「うるさいなー! 良いトコなんだから邪魔しないでよ!」

「・・・はい・・・」



ダメだ・・・。

完全に自分の世界に嵌っちゃってる・・・。

こうなったらもう、私も腹を括って、とことんお付き合いするしかないみたい・・・。

半ばやけくそになって、話の続きを訊いてやった。



「・・・で? その後どうしたって・・・?」

「うふふふ、気になるぅ?・・・その後はねぇ、カカシ先生なんて言ったと思う!? うわー!きゃー!どうしよぉー!」

バンバンバン!

「ちょっと・・・! 力任せにカウンター壊さないでよ!」

「きゃー!きゃー!きゃー!」

バンバンバン!

「・・・・・・」



あーあ。何を言っても無駄みたい・・・。

慌ててジュースとクッキーの載ったトレイを持ち上げ、二次災害の難は何とか逃れたけど、伝票やメモ用紙がグッチャグチャだ・・・。



「ねぇ、サクラ。少し落ち着いて・・・」

「何言ってんのよ、いの。ちゃんと落ち着いてるじゃない」

「・・・どこが」



わざとらしく非難めいた目で見たって、どこ吹く風といった様子。

ムフフー・・・とニヤケっ放しで、絶対私の事なんか眼中にない。

何を見ても、何を聞いても、嬉しくて嬉しくて仕方ないんだろうな。

相手にするだけ無駄なんだ。

もう、勝手に二人で幸せになってなさい。



一人でどんどん話を進めて、頬を染め身をくねらせてキャーキャー言いまくっている親友を見ながら、そっと注文伝票を取り出した。



「はい」 



伝票とボールペンを無造作に差し出す。



「何これ?」

「ブーケの予約なら早めにしといてね。とびっきりの花、入荷してあげるから」



ニカッと笑って、色とりどりの花を指差した。



「やっぱり六月は混み合うからね。少し早めに注文しないと間に合わないよー」

「や、やだなぁ・・・。まだ、そんなんじゃ・・・」

「そう・・・? じゃ、特別に配達日未定で受け付けてあげようか?」



その時は世界一綺麗なブーケ作ってあげるから・・・。

感謝しなさいよ。あんた達のキューピッドにね。



「ねぇ、どうする? 暇ならこれから何か食べに――

「あっ! もうこんな時間! いっけなーい、遅刻しちゃう」

「へ・・・?」

「ごめんね、これからカカシ先生とデートなの。また今度ねぇー」

「ちょ、ちょっと・・・」



そそくさと手を振って、この世の春を享受している少女が、疾風の如く走り去っていく。

私はというと、突如火の消えたような店内に一人取り残され、馬鹿みたいに呆然と突っ立っていた。






「失礼しちゃうわね・・・。私は単なる時間潰し・・・?」






やれやれ・・・。

ほぉ・・・っと頬杖を突きながら、誰もいなくなった店内をぐるりと見回した。



「ふふ・・・うふふふ・・・」



なんだか無性に可笑しくなった。

ま・・・、とりあえずはめでたしめでたしで、一件落着なんだろうね・・・。



「うーん・・・。どんな花がいいかなぁ・・・」



どうせなら、あのこの大好きな花をいっぱい入れてあげたいな・・・。



ああして、こうして・・・。

頭の中で、一足先に極上のブーケを作り出す。



「ちゃんと幸せになんないと許さないわよぉ、サクラ・・・」



うふふ・・・と小さく笑いながら、青青と繁る観葉植物の鉢植え達に水を遣ってまわった。











                                                               (了)